IT部門と経営者よ、今こそITの考え方を見直す転換期だ!夏野剛氏が語る企業ITの近未来

「今の企業システムは、せっかくITを武装してレベルアップした社員個人の能力を抑制している」――。企業の現状に対してこう警鐘を鳴らすのは、慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏だ。果たして、その原因とは何か。また、そうした状況を打破し、将来に向かって持続的に成長し続けられる企業になるにはどうすればいいのだろうか。

» 2014年02月24日 10時00分 公開
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 2000年に新語・流行語大賞となった「IT革命」。そこから14年が経ち、PC、スマートフォン、タブレットといったデバイスが、今や一人一台、当たり前のように所有する時代となった。このように、21世紀に入り、個人としては一人一人がITで武装する世の中になっている一方で、日本企業はITを完全に生かし切っているとは言えない状況だ。

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏 慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏

 「ITによって最も変わったのは個の力が強くなったこと。個人の情報収集能力は、組織と同等のレベルになった。しかしながら、多くの企業の情報システムは、せっかく個人がITで武装した能力を減じる方向に作られてしまっている」と、慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏は指摘する。

 例えば、社員がスマートフォンなどを使っていくらでも情報収集できる環境にありながら、企業では社員PCからアクセスしたWebサイトをフィルタリングして閲覧制限をしたり、USBメモリを持ち込み禁止にしたりといったIT統制をしているのだという。

 「スマートフォンやタブレットが普及し、BYOD(私物デバイス利用)が注目を集める今、企業は情報システムの設計の基本原理、特に社内のイントラネットの仕組みや情報基盤のあり方を根本的に見直さなければならない時期が来ている。しかし、どうしていいか分からずにあえいでいるのが現状だ」(夏野氏)

リスクをゼロにするのではない

 では、どうすればいいのか。夏野氏は「そもそも何のためにITは企業のインフラ基盤になっているのかということを最初から定義し直すべきだ」と強調する。企業におけるITというのは、例えば、業務を効率化するためだけに役立つものではなく、最終的には企業の競争力を強くすることが目的なのだ。

 当然、企業がITを活用する上ではセキュリティ問題をはじめ、さまざまなリスクを想定しなければならない。そうした際に、何とかしてリスクをゼロにしようとするのではなく、リスクをマネージするという考え方に改める必要があるという。例えば、業務システムのログインのID/パスワードをエンドユーザーに毎月変更させるような管理をするのではなく、スマートフォン認証やデバイス認証にしたり、ネットワークのセキュリティを不必要に強固にするのではなく、アクセス権限の管理を厳しくして、リアルタイムに記録を取るような仕組みにしたり、ローカルにデータをダウンロードさせないようにブラウザベースのシステム管理をしたりと、リスクをマネージャブルにしていく。

 「企業がITを使うことによって得られる効用と、ITを使うことによって生じるリスクのバランスを見極めることが大切。リスクを限りなくゼロにするために、社員の業務効率が多少落ちてもいいというように設計されているのが今の企業の情報システムだ。そうではなく、社員の武器としてのITを再定義して、社員のモチベーションを高めるシステムを作るべき」(夏野氏)

データを使って成果を出すのが目的なのに…

 しかし、既存の発想を捨て、新たな情報システムを作るには課題もある。夏野氏によると、IT部門の多くは企業競争力を向上させることがミッションになっておらず、できるだけバグのない、リスクのないシステムを作り上げることが目標になっているという。「そもそも企業が情報システムを導入する目的と、セキュリティが強固で安全な仕組みを作ることはイコールではないはず。そこにミスマッチが起きている」と夏野氏は話す。

 例えば、昨今、「ビッグデータ」がトレンドになっていることからも分かるように、企業におけるデータ活用の重要性が高まる中、社員がいち早くデータを生かして業務効率を上げたり、経営の競争力をアップしたりすることが求められているのに、IT部門はデータ活用のための仕組みをまず作ろうとする。つまり、仕組み作りが目標になってしまっているというのだ。

 「最も大切なのは、そのデータは何のために使われて、どのような価値を経営や業務にもたらすのかをきちんと理解できる社員が活用しやすい仕組みを提供することである。IT部門は本当に意識を変えないといけない。例えば、システムのユーザーインタフェース(UI)も後回しになっている。その上、『エンドユーザーに使い慣れてもらうしかありませんね』などと口にする者もいる。社員の業務効率を上げるための環境を整備することが目標だということを再認識しないといけない」(夏野氏)

 加えて、これからは攻めのITを考えていくべきだという。今までは守り中心だったため、いくらITで武装してもそれは防具ばかりなので、動きが緩慢になり戦えない状態だった。夏野氏は「守ることばかりに集約していて、ITが戦うための武器だという感覚が多くの企業に欠けている。それを再定義することが重要だ」と述べる。

2つの“ソウゾウ”

 では、IT部門がこれまでの発想や考えから転換するにはどうすればいいのか。夏野氏は、外部からいろいろな経験を持った人材を採用するなどして多様性を取り入れるとともに、「想像」と「創造」という2つの“ソウゾウ”性を持つべきだという。具体的には、どういった仕組みを作ることでユーザーが使いやすくなるのかという想像力と、そのための創造的なソリューションがあるかどうかということだ。そして、この2つの“ソウゾウ”性は多様性から生まれるのだという。

 「一律的な人材で構成されているようなIT部門だとなかなかうまくいかないだろう。ベンダーがいかにクリエイティブな提案をしても、最終的な意思決定はユーザー企業にある。意識改革と組織改革を同時にやっていかないと本当に良い仕組みはできない」と夏野氏は語気を強める。

経営者は信長に見習え

 一方で、IT部門だけではなく、経営者もマインドを変えなければならない。夏野氏は「経営者ももっと情報システムを重要な武器だと位置付け、関心を持つべきだ。例えば、自分が使いにくいと思うようなUIは改めさせるくらい強い姿勢で臨んだ方がいい」と説く。そのためには、経営者自身がITを使いこなすことが肝要である。

 そこで夏野氏が提唱するのが「IT信長鉄砲論」だ。戦国時代に鉄砲が日本に入ってきたとき、鉄砲という新しいテクノロジーを組織として最初にうまく使いこなしたのが織田信長である。信長は鉄砲をどのように合戦に応用するかということを自分の経験と勘を基に考え、その結果、鉄砲を一部の人間だけに使わせるのではなく、組織として運用したというのが、ほかの武将との大きな違いだった。

 「現代の経営になぞって考えれば、信長のように、新しいIT技術が入ってきたときに、まずはそれを自分で使ってみて、その上で、組織に対してどういう可能性をもたらすかを真剣に考え、それを組織に応用していくべきである。自社の組織の強み、弱みをすべて熟知している人間でなければできないようなことを信長はやった。それができるのは企業でいえば経営者しかいない。その役割をIT部長に任せるということはあり得ないのだ」(夏野氏)

 このように、経営者の行動も変えていかなければ、結果的に日本企業は海外企業との競争に敗れて、どんどん撤退戦に追い込まれてしまうという。

 夏野氏の見方だと、この先10年でダイナミックに世代交代が進み、今当たり前のようにITを使いこなしている層が経営者になることで、日本企業は大きく変わるとしている。

 しかし、ただその日を待っているだけでは、他社に先んじて事業成長できない。ビジネス変化が激しい現在、最悪の場合には、世代交代する前に企業がつぶれてしまう可能性もある。「競合他社がIT武装を強化する前に先んじて手を打ち、経営力を高めることが不可欠。企業におけるITの利活用について、今こそ原点に立ち返り、考え直すタイミングにあるのだ」と夏野氏は意気込んだ。

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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2014年3月23日

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