こうすれば、社内SaaS活用は成功する〜事例から学ぶクラウド活用術HPエバンジェリストに聞く、オリンピックに向けてITができること

企業内システムのクラウド化が進む昨今、「クラウドを活用して競争力を上げたい」と考える企業は多いものの、「でも、どうすればよいのかが分からない」と途方に暮れる担当者も多い。ここでは事例からクラウドの活用法を探る。

» 2014年09月24日 10時00分 公開
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日本企業はSaaSを使いこなせていない

 企業におけるクラウド活用は、ほんの1年前と比べても日に日に進んでいる。柔軟性や俊敏性といったクラウドのメリットを享受してビジネスの競争力を獲得しようと、さまざまな施策を実践している。

桑本謙介氏 日本ヒューレット・パッカード HPソフトウェア事業統括 プリセールス統括本部 シニアコンサルタント ITトランスフォーメーション エバンジェリストの桑本謙介氏

 しかし、「実際に企業が競争力を身に付けるところまでクラウドを活用できているか?」と考えると、少し疑問が残るだろう。

 特にプライベートクラウド環境においては、「まだまだ十分に使いこなせていない」という印象だ。もちろん、プライベートクラウドの運用が下手だというわけではなく、そもそもの活用方法に偏りがあるという意味である。

 ITトランスフォーメーションエバンジェリストとして活動している日本ヒューレット・パッカード株式会社HPソフトウェア事業統括 プリセールス統括本部 シニアコンサルタント 桑本謙介氏は、日本企業におけるプライベートクラウドの利用シーンを次のように分析する。

 「現在では、例えばファイルサーバを共通インフラ化するといった、IaaSやPaaSに分類される使い方が多く、SaaSとしての使い方は稀です。もちろん、プライベートクラウドでシステムを共有化することで、大幅なコストダウンが見込めるでしょう。しかし、それより上の“IT戦略の強化”という面では、まだまだ不足しています」(桑本氏)

 桑本氏は、「共通化できる業務が少ない」や「既存のパブリックサービスを使えばよい」と思われていることに、この偏りの原因があるのではないかと指摘する。

 しかし、クラウドサービスの利用が遥かに進んでいる欧米に目を向けると、「社内SaaS」の活用が非常に進んでいる。それを裏付けるのが、ソフトウェアの販売形態の変化だ。製品によってはパッケージソフトウェアの販売数が激減し、SaaSのライセンス数がその数字を上回っているケースもあると言う。

 「HPも、開発やテスト、運用のソフトウェアで世界的に大きなシェアを獲得しています。欧米の販売部門の報告によれば、これらの製品も販売比率がSaaSに傾いています。ところが日本では、『SaaSを導入したい』という意向は聞こえてくるものの、実際にはオンプレミスシステムでの販売がほとんどです」(桑本氏)

 日本企業の経営者やIT担当者が、社内SaaSのメリットについて理解していないはずはないだろう。しかしそれでも、なかなか導入は進んでいない。まずは、その原因を探ってみたい。

ITを活用できなければ競争力は低下する一方だ

 HPにおいてシステムを導入する際には、あらかじめ「サーバマシンは3年で廃棄」や「ストレージは4年で廃棄」といったポリシーに忠実に従ってハードウェアのライフサイクルを含めて計画を実行する。“もう少し使えそうだから”などといった理由で廃棄を延長するようなことはしない。

 もちろんハードウェアだけでなく、サーバソフトウェアなどサービスの構成要素の全てに対してライフサイクルが定義されている。同社では、こうした定義を基に、エンジニア同士が相互連携を図りながらシステムアーキテクトを行って、標準構成を決定する専門の部署が存在しているのだ。

 このようなポートフォリオ・マネジメントの目的は、コストとリスクのバランスを取ることにある。標準構成をこれほどまでリソースを使って守ろうとしている目的は、コストとリスクのバランスを取りやすくするためだ。

長期的な費用対効果が高く、システムの老朽化のようなリスクに対処しやすいように、あらかじめ標準を定め、それを守るための仕組み作りやポリシー策定にリソースを割いているのだ。

桑本謙介氏

 「日本企業でも標準化を行う部署を設置するケースは増えてきていますが、本格的にガバナンスを利かせて運用している業種・業界は、ごく一部に限られているようです」(桑本氏)

 一般的な欧米企業においては、CIOが一括でIT予算を管理し、各業務部門へ分配するというモデルが多い。これに対して日本企業では、業務部門がIT予算を持っており、個々にシステムの導入が進むケースが多い。組織的にも、部門間で意思疎通を図る仕組みや意思が希薄で、どうしても個別最適化が進んでしまうという問題がある。

 欧米企業では、新しいテクノロジーを活用することを前提に、標準やガバナンスをメンテナンスする役割をCIOが担っていることで、従来から継続的に技術革新が図られ、現在のような「サービス指向アーキテクチャ(SOA)」への変革が進んできた。こうして、特定の業務プロセスを外部に出しやすい構造がすでに出来上がっているというのも、SaaSの活用が進んでいる一因になっている。

 一方の日本企業には強力なCIOが存在せず、技術革新がほとんど進められてこなかったのが現状だ。それを証拠に、未だにメインフレームのシステムを利用している企業も少なくない。他の仕組みと密接に絡み合うシステムが出来上がっているために、移行が困難になっているのだ。

 「しかし、5年後や10年後のビジネスを見据えたとき、このまま競争力を低下させ続けるわけにはいきません。例えば製造業においては、日本の品質が高く評価されてきましたが、欧米企業はITを活用して、それ以上に高品質な製品を安価に生産するようになっています。“失敗して損をしたくない”と変革を恐れるがゆえに、より大きな損をしているのです」(桑本氏)

HPの事例から学ぶ、社内システムのSaaS化

 “競争力の強化”という効果は確かに不透明で、ポジティブに投資を行えるものとはなかなか言いにくい。SaaSのようなサービスが基幹業務を中心として使われづらい日本企業の構造は過去から言われていることであるが、「その制約の中からどう脱出すべきなのか」に対する回答の1つとして、今回はHP自身が実践しているユースケースを2つ取り上げてみよう。同社は、社内システムのSaaS化を図ることで、大幅なコストカットと、定性的ではあるが競争力の強化を実現している。

 まず1つ目は「開発環境のSaaS化」、すなわち「DevaaS(Development as a Service)」だ。

 製品の開発に限らず、業務システムの導入などにおいても、本番環境のほかにステージング環境や検証環境、開発環境を用意するのが一般的だ。複数のサーバを連携させるシステムであれば、それぞれ個別にサーバマシンを用意することになる。

 しかし、「例えば検証環境をどれほど使用するか?」ということを考えてみると、それなりの調整工数を要する割には、開発の合間のごく短期間しか使われていないことに気付く。

 そこで役に立つのが仮想化技術だ。

 検証時には、必要な分だけ仮想マシンを迅速に稼働させることができる。システム間の連携も比較的容易だ。

 ただし、物理環境を仮想化環境に移行しただけでは、細かな手間は変わらない。従来と同様に、IT部門の担当者にリソース配分を依頼し、環境が構築されるまで待つことになる。個々にリソースの要件を検討する必要があるため効率が悪く、品質も一定化しにくい。不要になった仮想マシンが放置され、無駄にリソースを消費するというケースも少なくない。

 一方、HPのDevaaSでは、例えば「品質検証環境」をリクエストすれば、それに最適化された構成が自動的に提供される。OSをどうすべきか、ミドルウェアはどれを使うかと思い悩む必要はない。基本的には、15分もあれば全ての環境が整い、開発を始めることができる。

図1 <図01>

 全ての開発担当者が、手法、粒度、要件、それらを実現するための機能、テストの分類や必要項目、またそれらのデータの保管場所などといった共通化された要素で作業を行うため、成果物としての製品やシステムの品質を安定的に向上させられるのだ。

 こうして構築されたDevaaSシステムでは、全世界2万8500人ものアプリケーション開発者のテスト環境を、たった4台のサーバで賄なっている。にもかかわらず、製品開発中のインシデント(チケット)は約40%削減された。アプリケーションの無駄が削減され、可用性は従来の99.7%から99.96%まで向上し、健全性の早期検証が可能となったために、バグ密度は80%削減することに成功した。開発前後のシステムの変更要求は、半分以下になったと言う。

 「もちろん、システムを導入しただけでは使ってもらえません。特に外部の開発協力会社にインターネットを介してアクセスし、開発やテストに活用してもらうためには、トレーニングやドキュメントの用意、ルールの徹底など、運用面での工夫が必要となります」(桑本氏)

 もう1つ、HPで実践しているのが、開発された製品を紹介するためのデモ環境のSaaS化「DemoaaS(Demo as a Service)」だ。

 例えば、ビジネスの拡大に合わせて人員が増強されたとき、必ず課題となるのが、人的リソースの即戦力化である。どんなに優秀な人材を獲得したとしても、一定のレクチャーや教育を受けなければ、営業活動を行うのは難しい。しかし、使いやすいデモ環境や紹介すべきコンテンツがまとまった環境があれば、すぐにでも顧客に製品を説明することができる。

図2 <図02:デモ画面>

 「製品によっても異なりますが、通常は時間をかけてデモ用のシステムを構築し、顧客を自社に呼んで、デモを見せる必要があります。しかし、DemoaaSを用いれば、客先で急にデモを求められても、インターネット環境さえあれば数分で準備できますので、機会を逃すことがありません。製品ごとにデモ環境がメニュー化されており、エンジニアでなくとも数クリックですぐに使えるようになります」(桑本氏)

 仮に、世界中にソフトウェアエンジニアが100人おり、年に2回リリースされる特定の製品を販売するデモのためのシナリオと環境を作るのに、一人当たり20時間を要したとする。すると年間で2000人時、時給が5000円だと仮定すれば、毎年1000万円のコストが掛かることになる。DemoaaSであれば、デモ環境を作るためのハードウェア資産を含めれば、かなりのコストを削減できる。見方を変えれば、これまで年2回しか作れなかったデモ環境・シナリオを、ビジネス環境や顧客ニーズに合わせて柔軟に構築できることでもある。

 HPのソフトウェア部門では、商談や営業活動の目的に合わせてデモ環境とシナリオをプロビジョニングし、極めて迅速にデモを行えるようになったことで、生産性の向上も実現できているのだ。

高まるビジネス側の要求にITが応えることはできているのか?

 HPではさまざまな市場調査を実施し、その結果を製品開発計画に反映させている。その中で、特に桑本氏が注目するのは「ソフトウェアのリリースサイクル」の変動だ。

 現状のアプリケーション開発の現場では、年4回のリリースが一般的だと言われている。しかし、HPによれば、ビジネス側の要求に従って、2015年には9倍の36回、2020年には30倍となる120回ものリリースが求められるようになると予測されている。業務から発生したITへのリクエストを迅速に実現することでビジネスの加速が期待できる一方、それが実現できない企業は、競争力において大きなハンデを抱えることになるのだ。

 このリリースサイクルを実現するためには、現状の鈍重で個別最適化されたシステムでは対応し切れない。HPのDevaaSやDemoaaSのように、スタッフが共通の基盤を用い、ビルドやデプロイといった作業が自動化されている仕組みが、絶対に必要となる。

 現在は、こうした効率化を目指して、ITアーキテクチャを考え直す時期に来ていると言っても過言ではない。そのためには、IT間の依存関係や、それによって生じる成果物も構造化し、組織内外で一定の手法を用い、決められた場所に必要な情報が格納されるようなガバナンス設計も必要となる。

 「1から10まで、全てを一気に実現するのは困難です。そこでまずは、エンドユーザーに共通基盤を提供することから始めましょう。コストメリットが出やすいため、経営陣の理解が得やすい部分でもあります。その後、成果物の標準化を行うことで、当社のDevaaS/DemoaaSのように自動化も実現されるようになれば、高い生産性の向上が期待できるようになります」(桑本氏)

 SaaSのような環境を使ってもらい、成果物を絞ることで標準化を進めれば、必ずコストが削減できると桑本氏。そこで浮いたコストを攻めの投資に使ったり、ユーザーの満足度向上に使うことで、ITの価値を高めるとともに、競争力強化につながるのではないだろうか。

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提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2014年11月30日

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