「設計をしない設計者」が良い設計者である理由とは何かMONOistセミナーレポート

製造業のあらゆる“現場”で人手不足が叫ばれる中、今設計現場に求められているのは「いかに設計をしないか」である。その真髄とは何か、PLMコンサルタントの北山一真氏と、3Dデータのライブラリ機能やデータ管理ツールを提供するキャデナス・ウェブ・ツー・キャドは、今後あるべき設計の姿を提示する。

» 2017年12月18日 10時00分 公開
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 今、設計現場では、厳しい経済状況や人手不足という逆境の中で、短納期化とコスト削減を併せ、多様な市場ニーズに対応することを要求されている。MONOist編集部は2017年11月21日、設計部門のリーダーや業務改革などの推進役などに向けたセミナー『「設計をしない設計者」が良い設計者である理由』を都内で開催した。一見ドキッとする「設計者が設計をしない」というキーワードだが、「する必要がない設計を減らそう」、すなわち業務の無駄を減らし、コスト削減や品質向上をかなえようという思いが込められている。

重要なのは設計諸元の管理

プリベクト 代表取締役 北山一真氏

 基調講演で登壇した、PLM導入コンサルティングなど手掛けるプリベクトの代表取締役 北山一真氏は、設計を「情報化」し、ナレッジに基づいた設計標準化・高度化の実現について説明した。「設計をしない」という言葉に対し、「単に手間や工数を減らすだけで終わるな」と警鐘を鳴らし、効率化と併せて業務を高度化して付加価値や成果を増やしていくことも重要だと述べた。「効率化だけではなく、高度化という指標を意識して活動するだけでも組織は活性化する」と北山氏は述べる。逆に、効率化だけの指標を追い求めてしまうと、組織は弱体化してしまうという。


 北山氏は設計業務を高度化する上では、以下の3つのコンセプトを挙げた。

  • 設計の直接業務改革
  • 設計の情報化
  • 設計のストック化

 「直接業務」とは以下の内容を指す。

  • 属人的な要求仕様確認の排除
  • 最適機種/方式選定の最適化
  • 技術計算ツールの個人持ちの排除
  • 属人的な設計パラメータ選定の排除
  • 技術ドキュメント間の仕様/諸元転記の排除

 一方、設計業務改革において、多くの人がまず取り組むところは、以下のような「間接業務」であるという。

  • 図面検索の効率化
  • 採番の自動化
  • 部品表発行の効率化
  • 設計変更の一括修正
  • 生産管理システムへのデータ連携

 間接業務に対する改善の取り組みは、効果が分かりやすくて取り組みやすいが、設計の労務費部分に対してなど限定的な効果になりやすい。一方、直接業務に対して取り組めば、面倒で手間が掛かるものの、効果が大きく設計力強化になると北山氏は説明する。そうとはいっても間接業務の改善をやらないわけにはいかず、むしろ必要なもので、両方の改善の方向性や効果を意識して取り組むべきだと補足した。

 また設計業務は以下の3つに分けられ、これはソフトだろうがメカだろうが、全ての分野の設計に当てはまると北山氏は言う。

  • 要求仕様:要求仕様を明確化するプロセス
  • 設計:要求仕様を実現させるため、設計パラメーター(設計諸元)を確定するプロセス
  • 図面、部品表:選択された設計パラメーターをある意味のある塊として表現するプロセス

 「要求仕様」と「設計」が直接業務であり、「図面、部品表」が間接業務となる。

 図面品質や図面コストを本質的に良くするためには「要求仕様」と「設計」のプロセスを良くする必要がある。そのためには顧客要求・設計値といった価値を情報化する。北山氏は「設計の本質は、パラメーターを決める行為であり、設計諸元をどう決めるのかということ」だと説明する。

設計の情報化のイメージ(出典:プリベクト)

 設計諸元やパラメーター、決め方のノウハウは設計者の頭の中にあることが多い。これを情報化することが大事だと北山氏は言う。また図面や3Dモデルといった「作図作業」が発生するが(上記の「図面、部品表」)、勝手違いや寸法違いなどで図面のバリエーションが膨れ上がってバラバラになり、その分、作業も増えていってしまう。

仕様確定のばらつきを減らす(出典:プリベクト)

 その原因は、設計業務が属人的であるが故に、設計者が考えている要求仕様の定義やパラメーターが情報化され整理されていないことにあるという。また、情報イコールデジタルデータではない、つまり3Dデータ化やExcelの計算書そのものが情報ではない。情報とは、データベース化されて管理された設計諸元を示す。

 設計については、以下の2種類に北山氏は分類する。

  • 基本形状設計・方式選定
  • 相似形設計

 相似形設計は基本形状(ポンチ絵)の伸縮で表現できる設計のことであり、相対的な付加価値は少ないため、徹底的に効率化(自動化)させる。設計諸元表をデータベース化し、パラメトリック設計を適用していく。その分、設計者は「基本形状設計・方式選定」において新しい形・方式を生み出す部分に注力し、競争力を高めるようにする。また、設計諸元の管理は中長期的な計画でもって整備する。また「全ての諸元管理は不可能である」と北山氏は説明する。キーパーツや付加価値高い部分からデータベース化していけばよいとする。

デザインルールの整備範囲(出典:プリベクト)

デザインツールの全体像(出典:プリベクト)

設計高度化の全体像(出典:プリベクト)

図面を早く描ける設計者が良い設計者ですか?

キャデナス 代表取締役社長 上田義男氏

 キャデナスの代表取締役社長 上田義男氏は、良い設計者の条件とは、「図面を速く描くことではない」と、過去図面の再利用率を高める取り組みや、同社製品ユーザーであるKUKA Systems、エアバスによる成功事例について触れた。

 キャデナス・ウェブ・ツー・キャド(キャデナス)はインダストリー4.0のメッカであるドイツに本社を置く企業で、さまざまな部品メーカーやCADソフトに対応する3Dデータのライブラリ機能や部品情報検索システムを提供する。機械設計者向けポータルサイト「WEB2CAD」の運営も行っており、こちらのCADデータダウンロードサービスPARTcommunityをご存じの方も多いのではないだろうか。過去20年間の取り組みの中で、700社以上の部品メーカーカタログのデータを蓄積。インダストリー4.0に向け、今もなお情報強化に取り組む。これらの流れの中で、今後、設計者の負荷もますます増大する。標準化や部品の再利用といった目先の課題を解決して、なくすことが可能な業務を作らない取り組みを紹介した。

 上田氏は2002年のアバディーンによる「Component Supplier Management」と題した調査を紹介した。そちらによれば「エンジニアは非建設的な活動に自身の時間の約70%を費やしている。27%が検索、18%が再構築、23%は構成」という。平均労働年数を40年とすれば、検索に10年、データの再構築に7年、構成を考えることに9年となる計算になる。

 実際、同社のユーザーにおいても、探している部品の過去図面を見つけられないために、新規で3Dモデルや図面を起こしてしまうという例が多くあるという。このような運用を繰り返すことで、重複したデータの数もどんどん増えていってしまい、ますます検索を困難にしてしまう。

 このような事態を防ぐためには、標準化と部品データの管理を進める必要がある。しかし、企業でそのデータベースなどを一から整備して準備することは一筋縄ではいかない。

 キャデナスではそのような企業における部品管理の要望に対し、導入しやすく使いやすい部品管理ソリューション「PARTsolutions」を提供する。PARTsolutionsでは部品メーカーの購入品だけではなく、社内製作部品も含めて3Dデータを一元管理できる。部品番号や部品名といったテキスト検索だけではなく、3D形状や2次元の手描きのスケッチからでも、形状による過去図面の検索が可能だ。CADが使えない担当者でも部品データが検索できる。

 同社製品に収録される購入部品データは、マルチCADに対応したパラメトリックデータとして提供され、フィーチャー情報や拘束条件もはじめから持っている。このライブラリは既存のERPやBOMとも連携し、部品選定の際に3Dモデルと共にこれらの情報を参照できることも特長だ。

部品管理ソリューション「PARTsolutions」の特徴(出典:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)

さまざまなシステムに対応(出典:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)

 工業生産向けソリューションを提供するKUKA Systemsは、購入部品の新規マスター作成を35%削減できたという。新規購入品が1583個で、1つ当たり200ユーロとして、31万6600ユーロのコスト削減となった。KUKAはPARTsolutionsをSAPのマテリアル管理システムと接続して利用している。

KUKA Systemsの事例(出典:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)

 航空機メーカーのエアバスにおいてはPARTsolutionsとERPと連携させた仕組みを導入している。エアバスとサプライヤーは同じデータライブラリを共有するようにしている。過去の「A380」の開発においては、類似形状検索を用いることで部品の再利用率を40%まで高めたという。

 キャデナスの営業技術の清水祥之氏は同社の「PARTsolutions」やバージョン11の新機能について紹介した。コネクターの接地面形状など特定の部位を対象にした検索、ミラーパーツ(左右対称)を識別した検索に対応したことを発表した。

 新機能である「PURCHINEERING 2.0」は形状検索ならではの仕組みが備わっている。まず新規作成した部品の3DデータをPARTsolutionsのバックグラウンドでチェックし、その部品は本当に新規に作成する必要があるかを判断する。次に、登録するタイミングで、過去の部品から類似形状検索を実行して判断する。似たような部品がある場合は、レポートが作成されて担当に通知する。似たような部品を過去に作成したことがなかった場合は、自動でデータベースに登録される。バッチ処理が適用できるため、1日に作成した新規部品データを夜間にチェックするという運用が可能だ。

部位検索の概要(出典:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)

PURCHINEERING 2.0によるデータ登録の仕組み(出典:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)

 部品を迅速、確実に探せるようになれば、部品を再利用できる設計者、すなわち「設計をしない設計者」になれる。検索時間を削減し、集中購買などを実現することで、無駄にしていた時間をより創造的な設計の時間に充てることができる。キャデナスではこうした解決を支援する製品を提供することで、設計現場の業務改革の力になりたいという。

キャデナス製品の活用事例:過去の実績を素早く探すことで提案をより早く正確に(出典:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)

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提供:キャデナス・ウェブ・ツー・キャド株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月8日