サプライチェーンのDXを阻む“落とし穴”を回避せよ カインズが取り組むマスターデータ戦略

蓄積したデータを「資産」としてビジネス戦略に生かしたい企業は多い。可否を決める要素の一つがデータの品質だ。カインズは誰でもデータを活用できるように、複数のシステムに分断されたり不足していたりした商品データの集約に取り組む。

» 2021年11月17日 10時00分 公開
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デジタル化を推進する中で直面した「マスターデータ」の課題

 カインズは「より良いものをより安く」を追求し、全国でホームセンター「CAINZ」を展開する。1978年に栃木県にホームセンター1号店を出店し、1989年からは現社名で事業を展開する。SPA(製造小売り)としてプライベートブランド開発にも積極的に取り組み、2021年現在、店舗数は226店舗(2021年10月末時点)、売上高は4854億円に達するホームセンター国内最大手企業だ。

 同社が「IT小売業」を目標に据え、デジタル技術の活用に本腰を入れたのは2019年のことだ。同年を「第3創業期」に位置付け、中期経営計画「PROJECT KINDNESS」をスタートさせた。グループ理念である“For the Customers(消費者のために)”を土台に、顧客への約束「プロミス」と、ビジョンを実現するための価値観「コアバリュー」を制定した。一方でECサイトの強化やカインズアプリの開発、ネットで注文して店舗で受け取る新サービス「Cainz PickUp」(カインズピックアップ)などを開始した。

カインズの辻 真弘氏。辻氏は国内でも有数の製品バリエーションを持つ製造業で膨大な数のマスターデータ整備を主導してきた経験を持つ

 同社でECサイトの強化に取り組んだ辻 真弘氏(元 デジタル戦略本部 eコマース部 部長)はこう話す。

 「以前は店舗の仕組みとECの仕組みがそれぞれ独立し、連携できていませんでした。そこで重要になってきたのがマスターデータ管理(MDM)です。ECの強化と併せてMDMに取り組み、ビジネス資産として活用できるようにしたいと考えました」(辻氏)

店舗とECとでデータの共通化がされていなかった

 MDMに取り組むに当たり、カインズは複数の課題を抱えていた。1つ目は、店舗とECで使うデータの共通化だ。

 「店舗を中心に事業を拡大してきたこともあり、以前は店舗に必要な情報をそろえることを第一に考え、マスターデータを作成していました。しかし、そのままではECに必要なデータが足りませんでした」と辻氏は語る。

 「店頭販売では不要でも、ECには必須」とされるデータの種類は、商品の画像から詳細な情報まで多岐にわたる。

 「商品の説明やスペックについての詳しい情報は、店頭販売では実物や販売員の説明などがあるため不要ですが、ECでは顧客の購買を左右する重要な要素となるため、商品スペックのマスターデータが必須です。しかも単なるテキストではなく、色や種類といった項目ごとに分類して管理できるようにする必要があります」(辻氏)

 他にも、ECで消費者の自宅に商品を配送する際に必須の「商品の重量」や「注文を受けてから出荷するまでのリードタイム」といったデータも新たに取得する必要があった。

 逆に、ECでは必要ないが店舗では必須のマスターデータも数多く存在していた。

 「店舗とECでは、同じ商品を扱っていても、 必要なデータの種類や量、必要項目や入力方法といった考え方は大きく異なるため、マスターデータを作成する際も注意が必要です。店舗事業で特に重要なマスターデータは、店ごとのレイアウトや商品の陳列方法を決めるための棚割です。値引きのためのマスターデータも存在します」(辻氏)

 カインズの場合、扱う商品のうち、他社が製造したものを仕入れて販売するナショナルブランドだけでなく、プライベートブランドのマスターデータも必要としていた。後者の場合は外部に商品のデータが流通していないため、自社でデータを収集し、店舗とECに使えるマスターデータを独自に構築する必要があった。

ECではより詳細なマスターデータが必要になる(資料提供:カインズ)

 マスターデータの整備不足や連携不足が現場の業務に影響を与えるケースもあった。消費者がECサイトで注文した商品を店舗で受け取れるCainz PickUpは開発当初、ECサイトと店舗のマスターデータの連携がうまくいっていなかった。そのため顧客からの注文情報が店舗にうまく伝わらず、在庫を確保できない事態も発生したという。

 2つ目の課題は、データ入力の業務負担が大きく、ECのマスターデータ登録や販売の開始が店舗より遅れてしまう点だ。従来は、メーカーから受け取った商品コードを従業員が表計算ソフトでコピー&ペーストし、ECサイト用のコードを作成していた。チラシやPOPのデータも手作業でECサイトに反映していた。申請や承認のプロセスを印刷物で進めるケースも多く、データ登録作業や確認作業に多大な工数と時間がかかっていた。

 上記のような課題に悩まされていたカインズは、MDMに取り組む過程で既存のデータ管理の在り方を根本から変える必要性を意識していた。

 「全社の業務がうまく回るMDMを実現するには、ECに必要なデータを後から追加するだけでは不十分です。マスターデータに関わるあらゆる部門の担当者が『ECと店舗両方の現場がデータをどう使えたらいいのか』を意識することが重要になります。そこで、事業部門の担当者やシステム担当者、EC担当者、技術担当者などと協力して全社的に取り組む必要がありました」(辻氏)

データを「資産」に変えるために 広い視野でMDMを実践

 カインズのMDMを支えたのが、データマネジメントのプロフェッショナル集団であるリアライズだった。同社は、カインズの既存データのクレンジングから新しいデータ項目の作成、紙に記載されていた情報のデータ化や入力、マスターデータの整備などを支援した。店舗とECが同じデータを使えるようにすることで、ECの収益改善と今後のビジネス拡大のための基盤作りを進めたのだ。

 「前職で担当していた別のプロジェクトで、リアライズのマスターデータ整備の実績は理解していました」と辻氏は語る。

 カインズが求めていたのは、システムに実装しやすいMDMではなく将来的にデータを資産として活用できるようにするためのMDMだった。その点で辻氏はリアライズに信頼を置いていたという。

 「(リアライズのように)登録データの品質や構造に踏み込み、実務における有効性を考えながらデータ整備に取り組む企業は他にはありません。同社はMDMプロジェクトを成功させるためにも必要なパートナーでした」(辻氏)

 同プロジェクトを推進したリアライズの大谷 洋一郎氏は「当社はシステム開発会社やツールベンダーではありません。データのアーキテクチャ構築からデータの入力や作成、サービスとしての運用まで、データのライフサイクルを意識したサービスを提供し、データを使ってビジネスとITをつなぐことがわれわれの役割です」と話す。

 「カインズさまとの取り組みでも、将来的なビジネス拡大に向けて最も良いMDMを一緒に考えることから始めました」(大谷氏)

自社データをいかに正しく整えられるか

 カインズのMDMに当たり、リアライズが最初に支援したのは商品パッケージの画像を基にしたマスターデータの作成だ。ECで利用できるように、商品説明としてべた打ちされたテキストデータから、商品のサイズや色、特徴などのスペック情報を抽出したり、バリエーションが異なる商品をくくるための分類データ項目を作成したりしながら、マスターデータとして整備していった。

 カインズのMDM整備に携わったリアライズの大谷氏は次のように語る。

 「マスターデータの作成は、データのクレンジングや加工、必要なデータの補完などを含めた地道な作業です。すでに存在するデータを処理するだけでなく、POPや商品画像に加え、ECサイトから手作業でテキストを抽出し、データとして入力し直すこともあります。データやデータ項目の作成に当たっては現場の業務に関する知識が不可欠ですから、現場の担当者を対象にしたヒアリングを繰り返すことも重要です」(大谷氏)

 大谷氏らのチームは約6カ月をかけ、平均月7人ほどリアライズ側の人員を稼働させる体制でマスターデータの整備を進めた。ビジネスの主力であるプライベートブランドのマスターデータ約4万件を対象に、不足しているスペック情報を調査し、補完した。ITツールを活用した効率的なチェック体制と人の目で実施する丁寧なチェックを掛け合わせ、カインズが求めるデータ品質を確保したマスターデータを構築した。

 「リアライズは『構想策定』『構築・実装』『運用・定着化』という3つのフェーズでデータマネジメントを進めることを提案しています。今回は最初の2つのフェーズで、データのアセスメントとルール作り、既存システムからのデータの抽出、クレンジングなどを中心に支援しました」(大谷氏)

リアライズが提供するマスターデータ整備サービスの全体像(画像提供:リアライズ)

データ管理を待ち受ける「2025年の崖」手前の落とし穴とは

 カインズには、商品情報に限らずさまざまなマスターデータが存在している。マスターデータ自体が日々更新されるため、メンテナンスの手法も重要になる。同社はリアライズと共に業務の担当者やシステム担当者と連携しつつ、従業員のMDMに対する意識改革やプロセス改革、マスターデータ運用の定着化にも取り組もうとしている。

 製造業や小売業を中心に、オンプレミス主体のERPが保守期限を迎える「2025年の崖」問題が数年前から取り沙汰されてきた。リアライズのマーケティングを担う海老原氏は「2025年の崖の手前に、MDMに関して大きな落とし穴が開いている点にも注意していただきたい」と話す。

 適切なMDMを実施しなければ、蓄積したデータも活用に足る品質を確保できず、本来の価値を発揮しにくくなってしまう。海老原氏は「DXに向けて最先端の技術を導入したのに期待した効果が出ない、というケースの多くは、データの整備が未熟であることに起因していますが、そのことに気付いている企業はまだ少ないと思います」と話す。

 「自社が保有し蓄積したデータは競争優位を獲得する武器になります。いざというときにデータを活用できるようにするために、今から意識してMDMを進めることが必要です」(海老原氏)

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提供:株式会社リアライズ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2021年12月8日