南房総市教育委員会が「Surface Book」の採用で目指したICT教育の理想形とは校務と教務の両方で活躍

南房総市教育委員会は、校務と教務の両方に活用できるデバイスとして「Surface Book」を導入した。タブレットの利用は授業にどのような変化をもたらしたのだろうか。

2017年02月27日 10時00分 公開
[ITmedia]
南房総市立和田小学校外観 南房総市立和田小学校《クリックで拡大》

 千葉県南部、房総半島の安房地方西部に位置する南房総市は、農業や漁業といった一次産業と観光産業を中心とした自然豊かな地域で、市民、企業、教育機関、行政が力を集結し、創造力を持って市民が主役の町づくりを進めています。

 南房総市では、全小中学校への無線LAN環境や電子黒板の整備教材の充実といったICT教育の環境整備も推し進めてきました。さらに2016年からは、校務用途と教務用途の両立を実現する「Surface Book」を教員へ配布することで、教員のタブレット活用を開始しました。南房総市は今後、このSurface Bookを活用することで、授業のインタラクティブ性をこれまで以上に高めていきます。

タブレットで授業のインタラクティブ性を上げ、教員と生徒の触れ合いを増やす

 南房総市は前述の通り、市民や企業、教育機関、そして行政が力を集結することで、創造力を持った「市民が主役の町づくり」を進めています。こと教育機関においては、「南房総学」と呼ばれる第一次産業の体験授業を取り入れるなど、ユニークな教育を実践しています。

 市内に14ある公立小中学校の教育を補助する南房総市教育委員会では、こうした「市の地域性を生かした教育」の推進と並行し、近年有効性が強調されるICT教育の環境整備を推し進めています。

 具体的な取り組みとしては、2013年に全小中学校で無線LAN環境を構築。2015年には、1つの学校に少なくとも1台の電子黒板が備わるよう整備をしています。

 このようにICT教育の環境整備を進める南房総市教育委員会ですが、もともとICT教育の導入に積極的であったわけではありません。

 南房総市教育委員会教育総務課の江野口 隆満氏は、「南房総市教育委員会では、教員と生徒の触れ合いを、教育における重要事項と位置付けています。その機会を増やすべく、(校務や教務で)多忙な教員の負担を減らす支援をしてきました。先進的な学校は2010年頃からICT教育の導入を進めていましたが、電子教材の作成には、どうしても教員側へ負担が掛かります。先の通り、当委員会では教員の負担を可能な限り排除したいという考えがあったため、南房総市ではそれまで、ICT教育に大きくは注力してきませんでした」と当時を振り返ります。

 そんな南房総市教育委員会がICT教育の環境整備を推進するに至った背景について、江野口氏は次のように説明します。

 「近年、行政機関やベンダーの支援によって電子教材が充実してきています。また電子黒板の使い勝手も向上しています。ICT教育の有効性は理解していましたので、教員側の負担なくICT教育が実践できるフェーズに至ったことを受け、環境整備を進めました」(江野口氏)

江野口 隆満氏 南房総市教育委員会の江野口 隆満氏

 ICT教育が実践フェーズへ移ったことにより、「教員へのタブレット配布の必要性、有効性も高まってきました」と江野口氏は語ります。その言葉の背景には、教員が自身で所有しているデバイスを積極的に教務活用していたことがありました。

 南房総市の教員は、これまでも、撮影写真を活用した振り返り学習といった形で、デジタルカメラやスマートフォンを授業内で活用しており、一定の効果を上げてきました。しかしこれらの機器は、授業で使うには画面サイズが小さいなど利便性に問題がありました。加えて個人デバイスを教務活用するため、セキュリティの観点でもリスクが残ります。

 このような問題を解決すべく、南房総市教育委員会はタブレットの導入を検討。同市では2015年度までに実施したICT環境の整備で、既に市内の小中学校へ無線LANと電子黒板が整備されていました。タブレットの導入は、先の問題をクリアすると同時に、机間巡視で生徒のノートを撮影し、生徒の考え方をその場で他生徒へ共有する、電子黒板で一斉共有するなど、授業のインタラクティブ性の向上も期待できたのです。

校務用PCのリプレースを機にSurface Bookを採用

 授業のインタラクティブ性の向上は、教員と生徒間の接点増加と密接に関わるため、タブレットの導入には大きな意義がありました。しかし、当然そこには投資が必要となります。既存製品からのリプレースではない「新たな投資」をする上では費用対効果の提示が不可欠ですが、その見える化は難しく、タブレット単体での導入は困難でした。

 このような状況の中、南房総市教育委員会は、2016年下旬に控えた校務用ノートPCのリプレースに伴う、教務用途を兼ねた2-in-1デバイスの導入を計画します。同計画の意図について、江野口氏は次のように説明します。

 「既存ICT資産である校務用ノートPCのリプレースは、必要経費として予算化することができます。そこで2-in-1デバイスを採用すれば、タブレットの用途を兼ねたPCの導入が実現できると考えました。また、タブレットは教務において有効に機能する一方、先行事例から『教員によって活用頻度の差が大きいデバイス』だという印象も持っていました。校務用途を兼ねる2-in-1デバイスを採用すれば、教員は普段の校務上でタブレット用途に慣れることができますので、活用頻度の差を埋めるという意味でも有効でした」(江野口氏)

 しかし、これらの利点を生み出すためのデバイスには、各用途で高いレベルの作業性、操作性が必要となります。南房総市教育委員会は2015年秋口に機種の選定を開始しましたが、江野口氏は「予算申請の期限となる2015年末の段階では、このレベルに達する2-in-1デバイスが存在しませんでした」と当時を振り返ります。

 そのため、南房総市教育委員会は、2-in-1デバイスの導入をいったん断念。2015年末の段階では従来通りのラップトップ型ノートPCを選定し、リプレースへ向けた予算を申請しました。しかし、翌年2月に発売が決定したSurface Bookの登場により状況は変わります。再度、タブレット導入へ向けて動き出したのです。

 江野口氏は、2016年2月に提供を開始したSurface Bookの魅力について、次のように説明します。

 「Surface Bookは、性能、画面サイズといった校務に求められる要件と、携行性やタッチ操作など教務に必要な要件それぞれを高いレベルで備えており、2-in-1デバイスの中では群を抜いて優れた製品でした。また、学校のシステムは基本的にWindowsベースで設計していますが、Surface Bookであれば校務、教務それぞれで利用するアプリケーション全てが利用できます。さらに、Windows 10は、キーボードの着脱によって自動的にタブレットモードとキーボードモードを切り替える機能を備えていますので、校務と教務のシームレスな切り替えが可能です。非常に魅力的なデバイスだと感じ、導入へ向け動き出しました」(江野口氏)

 校務用途と教務用途の両立を実現するSurface Bookですが、同デバイスは校内のあらゆる場所、シーンで活用することとなります。当然、そこには紛失や他者による操作といったリスクが推測され、セキュアな環境が必要となります。

久保田晋介氏 NECフィールディングの久保田 晋介氏

 南房総市教育委員会のICT環境整備を長年支援し、今回のプロジェクトでもSurface Bookの調達やシステム構築を担当した、NECフィールディング東関東支社の営業部千葉営業課に所属する久保田 晋介氏は、校務用と教務用のネットワークの切り分けをすることで、このセキュリティを担保していると説明します。

 「南房総市の学内ネットワークは、校務用と教務用とでネットワークを切り分けており、『Fogos PRO FS』というソフトウェアでセキュアクライアント化したデバイスでのみ校務用ネットワークへアクセスできる仕組みを採っています。認証キーを持つUSBメモリをPCに接続しなければ校務用のネットワークへ入ることができませんが、校内の無線LAN環境下であれば、USBメモリを挿すことで、どこにいても教務から校務へ移ることが可能です。このことから、同環境においては、携行性を持った校務用PCの採用意義が高いといえました。Surface Bookの導入は、既存のネットワーク環境を最大限に生かせる取り組みだったのです」(久保田氏)。

 2016年6月に、南房総市教育委員会はSurface Bookの導入を決定しました。Windows 10と既存業務アプリケーションとの互換性検証やデバイス調達、キッティングを経て、同年11月にSurface Bookの運用を開始しています。

高い信頼性を持つSurface Bookを採用したことで、タブレットの教務活用を実現

 2015年末の段階で予算が既に確定していたことから、2016年のリプレースでは全教員のデバイスをSurface Bookへ変更するまでには至っていません。ですが、保守契約なしでデバイスを調達することで、各学校、1学年に1台の割合でSurface Bookを導入できています。

 江野口氏は、Surface Bookの持つ製品としての高い信頼性があったからこそ、教務でのタブレット活用が開始できたと評価します。

 「(保守契約をしなかった)背景として、予算的な制限はもちろんあります。ただ、それだけでなく、教員の責任範囲を明確にする、つまり配布デバイスであっても教員自身でしっかり管理する意識を醸成したかったことも、保守契約を外した理由でした。デバイスが故障しては校務と教務が滞ってしまうため、この決断には当然、デバイス側への高い信頼性が求められます。高い信頼性をもつSurface Bookだからこそ、当初計画した予算内でのタブレット活用が実現できたと考えています」(江野口氏)

 また、南房総市教育委員会では今回、Surface Bookと並行し、ワイヤレスディスプレイアダプターも導入しています。同製品は、デジタルテレビなどのHDMI端子へ接続するだけで、有線接続なしに遠隔にあるデバイス画面の複製投影が可能です。これによりSurface Bookが今後、教育場面に当然のように存在するツールとして活用されることを、江野口氏は期待しています。

 「既に各学校へ電子黒板を設置していますが、現状それはまだ各校1台〜数台という規模です。テレビやプロジェクターを設置している教室であれば、Surface Bookとワイヤレスディスプレイアダプターを組み合わせることで、電子黒板に近いインタラクティブ性を持った授業ができるようになりました。デバイスの発展的な活用を手軽に実践できる環境が整備できたといえるでしょう。今後、筆箱のように『教育場面に当然存在するツール』として、Surface Bookが利用されることを期待しています。南房総市は特別支援教育も注力していますが、そこで児童生徒の集中力を維持させる意味でも、この組み合わせは有効だと考えています」(江野口氏)

校務 教員へ配布したSurface Bookは、授業では主にタブレット型で、校務ではノートPC型で利用されている。認証キーを持つUSBメモリによって、業務によってネットワークの切り替えが可能《クリックで拡大》

PC教室に常設するノートPCも2-in-1タブレットの採用を検討

 Surface Bookを導入したことで、教員の自発的なタブレット活用と、それに伴う教育効果のさらなる向上を見通している南房総市教育委員会。南房総市教育委員会は、2018年以降に控えている、(各学校の)PC教室に常設するPCのリプレースについても、2-in-1デバイスの採用を検討しています。今後、教員に配布したSurface Bookや、PC教室への配備を計画する2-in-1デバイスが、あらゆる教育シーンで活用されることが期待されます。

 そこへ向け江野口氏は、セキュリティ面をさらに強化していくと語ります。

 「既にネットワーク面や認証基盤などはセキュリティ対策を実施していますが、今後さらに強固なものにしていく予定です。現在、認証キーを持つUSBメモリを利用してネットワークセキュリティを担保していますが、例えばSurface Bookが搭載する『Windows Hello』に対応したカメラを活用し、生体認証も認証基盤へ組み込むことで、利便性を維持したままセキュリティレベルを高められると考えています」(江野口氏)

 教員と生徒の触れ合いを重視した教育を実践する、南房総市教育委員会。Surface Bookの採用により、同市の教員は、授業のインタラクティブ性の向上と、さらなる生徒との接点の増加を実現しつつあります。この動きをさらに加速、発展すべく、南房総市教育委員会は今後も、ICT環境の整備と教育主事を通じた活用支援を推し進めていきます。

Surface Book Surface Book《クリックで拡大》

※本記事は日本マイクロソフトの記事をもとに再構成したものです。

この記事を読んだ人にお薦めのホワイトペーパー



提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:TechTargetジャパン編集部